温故知新


 ある日のできごと


ある日、棚の奥のダンボール箱を整理していたらセピア色の古い写真が大量に出てきた。その中から貴重な資料をいくつか紹介してみたいと思う。 それは今から半世紀以上前、自動車先進地域ヨーロッパのキャリアカーを研究するために先輩たちがイタリアで撮影してきたものだ。 まだ、日本人が海外へ渡航することもままならない時代、『覚悟の』視察旅行だったに違いない。 説明するまでもないことだが 『キャリアカー』 とはクルマを運ぶクルマ = 車両運搬車 のこと。言うなれば仕事グルマ、商用車なのだが...。 どうだろうこのたたずまい。さすがデザインの国イタリアだ。

  街角に停車中のFIATのキャリアカー
  (トラクターもFIAT製 FIAT642N6)
   1962年(昭和37年)
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 トラクター・トレーラーの造形


このクルマのたたずまいが "ちがう" と感じさせる理由は、やはりその造形にあるだろう。 後述するが、上段フロアを支える柱の曲線的な形状がその主な理由だ。現在のキャリアカーは一般規格鋼材を使用して製作しているため、ここまでの優美さはない。 しかし補強の取り方、枠構造の荷重の逃がし方などは見事に現代に生きている。

トレーラーを後方から見ると上段フロアを横に走る支柱が湾曲していてさらに縦の支柱も「く」の字に曲げてある。 アーチトンネルのような構造にして上段フロアに積んだクルマの荷重をうまく逃がしているのだ。 走行中の左右方向の動揺を抑えるのにも有効なはずだ。ここまでのアーチを作る手間にはただ感心するしかない。


 キャリアカーとしての機能


2階フロアを支えるために柱を立ててその柱が倒れないように斜めの桟を設けている。 現在の一般的なキャリアカーは上段フロアが油圧シリンダーやワイヤーロープで昇降するが、このトレーラーは柱とフロアが溶接されていて昇降しない構造であることがわかる。 これでは上段にクルマを積み降ろしすることができないのでは?と思うだろうが、トレーラー後端部の複雑な構造に注目してほしい。 最後部に折りたたまれている枠はクルマを載せる "プラットホーム" であり、これをワイヤで昇降させることにより、上段フロアへの積み降ろしを行うのだ。いわゆる "テールゲートリフター" である。残念ながら詳細な資料は残っていないが、このテールゲートリフターで上段に載せる作業を是非見てみたかったものだ。 この荷役方式は後のテールゲート型セミトレーラー開発に大いに参考になっただろう。


 載っているクルマにも注目!


 
 
 
 
キャブの上に積んである車は、
FIAT600 (セイチェント)
ドアノブが前のほうに見えるので初期型だ。1955年から生産がはじまった車だ。
 
 

その後が、
FIAT1300 (ミッレ・トゥレチェント)
1963年には日本にも輸入され、その高性能ぶりは当時の国産小型車の設計に影響を与えたと言われている。

 
 
 
 
 

トラクター下段の後端と、トレーラー側上段の3台、下段前方の2台は、有名な
FIAT500 (チンクチェント)
イタリアではこの車を保護するための法律まで作られようとするほど愛されている。この車もドアノブが前でヒンジが後にあるので 『nuova500』。イタリア車の資料としても貴重な写真だ。

 
 
 
 
 

トレーラー下段後端に載っているのは、
FIAT500 GIARDINIERA
(チンクチェント ジャルディニエラ)

"ステーションワゴン"という意味。
チンクチェントの後部座席は大人1人が横に向いて乗るのがやっとだが、ジャルディニエラは流石に余裕があり、大人2人が前に向いて乗れるだけの長さがある。エンジンはチンクチェントと同じ500ccではあるが搭載方法や形状がまったく違う専用設計品である。